神楽坂の『ギンレイホール』に行ってきました。
「11月27日をもって老朽化のため閉館。移転準備に入る」との報を受け、姿を拝みに行ったのです。
ギンレイホールとは、1974年(昭和49年)創業の映画館。ロードショー済みの準新作を中心に、2本立てを1500円ぽっきりで見せてくれる、今や貴重な「名画座」です。
「ギンレイ・シネマクラブ」なる会員システムも凄い。1万円ちょっと払うだけで1年間に何本でも見せてくれるのです。まるで利益なんか度外視で、映画好きのためだけに存在しているかのよう。
そんなギンレイホールが移転。ということは、ここにある、この姿のギンレイホールはなくなってしまう!
第一報を聞いたときの、私の頭の中身でした。
さて、老朽化とはいうものの、実際どれほど古いのか。
映画館以外の部分を見せてもらってみると、さすがに築63年。昭和の匂いが立ち込めています。(私の家も古いので、そんなに違和感ないですが。)
入居者はほぼ退去済のようです。映画館だけが最後まで粘っていたのでしょうか。字幕っぽいフォントがまた泣ける…。
ロビーに入ってみると、狭めの廊下、急な階段、昔から同じデザインの「ギンレイ通信」など、全てが懐かしく、全てが惜しい。
そして劇場内へ。
ずらっと並ぶ赤い椅子を見ると、「ギンレイに来た!」感じがしたものです。「老朽化」したところを見つけるとすれば、壁は確かに、もう少し白かったかもしれない。
そんなギンレイホールとの出会いは、20年ほど前のことでした。
当時、近くの大学に通っていた私は、まっすぐ帰りたくないときや、彼氏が忙しくて会ってくれないとき、見たい作品があればもちろん、ないときでさえ足を運んでいました。
ここでは世界中の映画が上映されています。有名な作品もあればそうでない作品もありますが、その編成には「ほぼ間違いがない」。
私は「ギンレイ・シネマクラブ」の会員でもありましたから、学校帰りに立ち寄っては、2本立てを見る。そして感動して帰る。
入るときにはもやっとしていた心が、出るときにはすっきりしている。東京広しといえども、そんなところはなかなかありません。
そういう記憶があるせいでしょうか。今でも足を踏み入れると、20年前の私に戻れるような気がするのです。(成長してないだけ?)
東京に住んでいると「あれっ?ここ何があったんだっけ?」ということがよくあります。
ある日、建物が壊される。しょっちゅう見ていたはずなのに、そこに何があったのか思い出すことさえできない。
ギンレイホールはなくなるわけではありません。が、この姿ではなくなってしまうし、きっとその記憶だって、朧げになってしまうでしょう。
ですが、ここに通っていた頃のこと、ここで見た映画のことまで消えてなくなるわけではありません。きちんと覚えておく工夫さえできれば。
ちょうどこの日見た「カモン カモン」とも符合するようで、涙が溢れてきたのでした。